Mousou-Eiga Blog

映画を妄想で語ったり語らなかったり

【アナ雪特集#5】『アナ雪2』メイキング4話感想。大きな変更の前が知りたい。お~しえて!その内容を!

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アナと雪の女王2』メイキング『イントゥ・ジ・アンノウン』もついに4話目。

 今回の題名は「大きな変更」だが、それに相応しい内容であり、もう何度も言っているが"衝撃"だった。

 4~6話がいっきに公開されたこともあって、既に全話見たわけだが、5話以降は割とあっさりしていたため、いろいろと考察を交えてメイキングについて書くのはこれが最後になるかもしれない(5、6話は感想として記事にはする)。

やっぱり当初は「大人向け」に作っていた『アナ雪2』

 私はメイキング2話の感想で『アナ雪2』は最初は大人向けに作っていたのではないかと推測したが、それはどうやら当たっていたようだ

 自分の【アナ雪特集#3】『アナ雪2』メイキング2話感想からの引用

前作から6年も経ち、ファンの多くがそれなりに大人になっていることも考え、いっそ大々的に大人向けにしてしまえというのはあったかもしれない。現行の本編も子供には理解が難しい描写が多いので、その名残りはあるように思う。

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 これは今回のメイキング4話で、バック監督が「今回は大人向けに作ってある」とぶっちゃけていたり、一般向け試写*1での反応から内容を「子供向けに変更した」という事実が語られたので確かなことである。

 それがどんな内容だったのかは知る由もないが、大筋は変わらなくても少々難解な表現が多かったようである。

一般試写での反応

 一般試写の客層が6歳くらいの子供が多くいると聞いた時のリー監督の「ええ?理解できるといいけど…」と少々狼狽えていたのが印象深い。

 リー監督は「ファミリー層だから8歳以上でしょ?」と言っていた点からして、ある程度知識や思考力が付いてきた年齢を対象に想定していたようである。リー監督は6年前に『アナ雪』を見た人へのプレゼントとして、そして大人になって2を見ることでまたいろいろと考えて欲しかったのだろう。

 それは変更がある前のジョシュ・ガッド氏のアフレコ時のインタビューにも表れている。ガッド氏は「オラフが少し成長して知識を付けたらどう振舞うのか」「前作を見た人にちゃんと応えてあげないといけない」と話していた。ガッド氏は変更前の脚本を読んでいるわけで(流出防止にオラフのシーンだけ渡されている可能性もあるが)、彼の心構えというだけかもしれないが、『アナ雪2』がそのような方向性で作られていたことが窺える要素の一つだろう。

 結果としては、大人の評価は高かったが子供からは理解しにくくて不評だったらしく、「子供向け」にするために半分くらい直す事になってしまった(半分って多くない?)。

 ただ、「大人向け」にしていた名残は至る所に残っている上に、「子供向け」にしたとは言っても全体的には十分に「大人向け」であろう。

 それは私の『アナ雪2』での記事でも触れているので是非読んでいただきたい。

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 ちなみに一般向け試写が終わった後に、スタッフの一人が「恋の迷い後をカットするんだったっけ?」って冗談を言っていたのが面白かった。あー皆さんやっぱりアレを異質に思ってるんですねぇと。

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「今回は少し大人向けにしてるんですよ。なにせ姉妹のベッドシーンがありますからねぇ…うぇへへへ」と語るバック監督(言ってねぇ!)
まるで死刑囚のような皆さん

 一般試写後の会議は監督含めたスーパーバイザーなどの上層部のみで行われるため、基本的に一般クリエイターは締め出される。その間、全ての作業はストップされる。

 「どのシーンが残るのか全く分からない。カットされなければいいけど…」などと不安に駆られながら集まって話すクリエイター陣は、まさに刑の執行を待つ囚人のようでちょっと面白かった。

 カットが決まれば、そのシーンは映画から消える。死刑宣告と同じである。

 データは闇の中へ

 カットされたり変更のあったシーンは基本的に全て消去されるようである。「朝来たらマジでデータ全部消えてたんすよ」と話すクリエイターが印象に残った。笑って話してはいるが、精魂込めて作ったシーンが全く残らないとは、結構精神に来ると思う。もう見返す事すらでいないのだから。

もったいないカットシー

 メイキングでは一部ではあるが、変更に伴って本編からカットされたシーンを見ることができた。それが「オラフが生き返るシーン」の別テイクである。

 この映像があまりにも綺麗だったので「何故カットした!?」という感情が渦巻いた。

 担当したオラフのアニメーション監修のトレント・コーリー氏もなんとか自分を納得させようとしていたけど、物凄く悔しそうだった。何せライティングまで始まっていたのだ。まさかカットされるとはと相当なショックだったはずだ。おまけに、一つのシーンには何人ものクリエイターが関わっている。監修の立場からしても辛かったに違いない。

 それは詳しくシーンについて解説していることからも伺える。

 このシーンは現行の本編と違って、オラフの身体は地上の至るところにバラバラに散らばり、水滴となって植物などに付着している。それが恐らくエルサの魔法によって結晶化し、オラフを形作る演出になっていたようだ。

 端的に言ってかなり素晴らしい!まさに本編に繰り返し出てくる「水には記憶がある」という言葉そのものではないか。森羅万象、水は至るところに流れており、それには当然記憶だってありますよと。オラフの命は失われたが、身体があちこちに散らばったことでそこで記憶と生命力を与えられた(保存された?)。そして、そこに流れる水と一体になった事で、オラフは元の身体に戻った際に記憶も性格もそのままだったと解釈可能だ。

 現行の本編の復活シーンよりも納得感のあるものになっていた可能性が充分にある。

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葉っぱから水滴が浮かび上がり、雪の結晶となって飛んでいく。実に美しいシーンだ。

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こちらは水溜まりから水滴が浮かび上がる。オラフの記憶が水を通して復活するのだ。

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このシーンだけでも、ライティングのスタッフ、植物を描いた人など10人以上が関わっている。カットされて影響を受けるのは一人だけではないのだ。

 おそらく、オラフが生き返ったというのを視覚的に分かりやすくすることにしたのだろうが、これは変えてはいけなかったのではないだろうか。子供には分かりにくいというのはそうかもしれないが、子供だって馬鹿ではない。何かを感じ取ってくれるはずだし、分からなくてもちょっと成長した後に見れば理解できることだってある。何も子供に全てを理解させる必要はない。例えばジブリ作品などは大人になってからの方が発見が多い。そんなアニメ映画でも良かったのではないのか。

 変更前の本編はもう見れないので、本当に意味不明なシーンだったのかもしれないが、私はこのシーンが全編見てみたい。それくらい美しかった。

 これ以外にも、中にはSNSでクリエイターが上げているカットシーンもあるので、探してみるといいだろう。

代わりに加わったシーンは本当に必要だったのか

 多くのカットシーンが出たが、追加されたシーンもある。その一つがオラフが一人芝居で前作のストーリーを語る、通称「オラフ劇場」である。

 これは複雑なシーンをシンプルにし、笑いを加えるという方針により追加されたわけであるが、果たして本当に必要だったのだろうか。

 確かに、私の124回の鑑賞の中でも、このオラフ劇場はマティアスの「What!?」やパビーオラフで笑いは起きていたので(スタッフにもめっちゃ好評だったようで。リー監督とか超笑ってたし)、笑いを入れるという点では成功だろうとは思う。

 しかし、前作のエピソードをそこそこの時間を割いてまでわざわざ説明する必要性があったのかは疑問だ。私はこのシーンは初見時にちょっとくどいなと思ってしまった。なぜなら、もう知っている話をオラフが変な動きで説明しているに過ぎないからだ。子供は変な動きだけで笑うのでその点ではありだが、これを入れるよりはもうちょっと映画のストーリーを掘り下げるものが欲しかった。まあ、そういったシーンが分かりにくいからとカットされてしまったのかもしれないが。

 ただ、映画のプロット解説としてはかなり優れたシーンであり、『アナ雪』という映画の説明はあれで十分である。一応、シナリオライターをやっている身としてはオラフのログライン作成能力に軽く嫉妬してしまった。私もオラフのようなストーリーテラーになりたいものだ。

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大好評だったパビーオラフ。まあ、シュールですよね。

一般試写の功罪

 一般試写はやらないよりはやった方がいいとは思う。何故なら、クリエイターは自分の作品というものが基本的に分かっていないからだ。どのクリエイターにも頭の中には壮大な物語が出来上がっていて、それを作品で表現で出来ているつもりなのだが、実際はそうでなかったりする。自分の作品には愛があるのは当然で、故に盲目的になってしまうのである。しかし、観客はそういったものがないので客観的に作品を判断し、それが面白いかつまらないか、あるいは作り手の想像を超えた解釈をして提示してくれる。そのキャラクターに相応しくない行動をさせていればズバリと指摘が入るだろう。だから、監督らも語っているように「一番大切なのは観客の反応」というのは事実だ。それを反映して変更するというのは、当然駄作になる確率が下がるし、"多くの"人に楽しんで貰える映画になる。

 だが、変にその意見に左右されるのもどうなのかとも思う。そもそも、この一般試写というのは、"その"作品を見に来る人ではなく、どの作品が上映されるかを知らされずに集められた人たちである。いくら『アナと雪の女王(Frozen)』が大ヒット作と言っても当然見ていない人もいるし、興味のない人もいる。そのような人が混じる中で試写をして、果たして作品の正統な評価が得られるだろうか。幅広い層からの意見を聞けるメリットはもちろんあるが、作品内容を左右する重要な使命を無作為に選んだ観客に与えてしまっていいのだろうか。

 おまけにこの試写は未完成映像も含まれているので、視覚から得られる情報や刺激などが弱い。映画として充分ではないものを見るのだから、その評価も充分でない可能性が捨てきれない。

 ストーリー・トラストでの意見で部分的に変えていくならまだしも、観客の意見で半分も変更する判断は果たして適切だったのか。これでは観客が映画を作ったようなものだ。

 映画は外に出した時点である種の公共物となり、観客のものになる。だが、観客に作らせるのは違うのではないだろうか。商業映画である以上、観客の望むものを作るのは当然として、クリエイターが作りたい物、伝えたいものがブレ過ぎてもよくない。

 一般向け試写の結果に偏重しているように感じるので、本当に変更が必要なら変えるというフラットなものでいいように思うのだが、どうだろうか。

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一般向け試写後の会議はカメラNGだったため、どのような意見が一般客から出ていたのか、どのような方針のもとに変更があったのかは分からず。見たかったが、変更前のバージョンを知られることを防ぐため(企業秘密的な)、一般客のアンケートなためプライバシーを守るためもあるだろうから仕方ない。

アニメーション作成の現場

 今回の4話は、結構アニメーターの仕事ぶりを見れたのも大きい。ディズニーのクリエイターはやはり優秀な人材が集まっているのだと再認識させてもらった。

大切なのは信憑性

 視覚効果チーフを務めたマーロン・ウェスト氏が非常に重要な事を語っていた。ウェスト氏はサラマンダー(ブルーニ)や彼の出す炎を例に出しながら「大切なのはリアリズムではなく信憑性」と解説している。これはプロですら見失ってしまう重要な観点だ。

 例えば、現実的ではないからとサラマンダーの炎を煙を出すめちゃくちゃリアルな炎にしてしまったらどうなるだろうか?それはただの炎であり、サラマンダーの出す魔法の炎ではなくなってしまう。だが、あまりにもフィクション的過ぎると途端に嘘っぽくなる。そこで視覚的にはフィクションな炎に現実の炎の動きを加えると、"サラマンダーの炎"として観客の目に映る。サラマンダーも架空の生き物だからと、好き勝手な動きをさせてはただのCGにしか見えないだろう。そこで現実の犬やトカゲ等のエッセンスを少し加えていくことで、その世界で生きている生物として見えるようにするのだ。これを間違えてしまうと観客は映画から現実に戻されてしまう。つまり、現実ではありえない存在であっても、その世界観に合っていれば、観客はその世界に入って行けるのである。

  これを明確に語る人はなかなか見なかったのでとても感心した。ウェスト氏はかなり優秀な人物だというのが伺える。本作のアニメーションの効果が"嘘っぽくない"のは氏のおかげなのは間違いない。

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エルサしか目に入らないかもしれないが、サラマンダーにどの動物のどんな特徴が反映されているのか注目してみよう。

作画ではなく撮影

 レイアウト部門のフアン・E・エルナンデス氏が見せてくれた映像の制作過程も面白かった。

 彼が「レイアウト部門はカメラ部門みたいなもん」と話すように、『アナ雪2』というかCGアニメーションの場面作成は作画というより完全に「撮影」である。

 洞窟でアナとオラフが会話するシーンを例に解説しているが、演じている役者をカメラで撮影するのと全く一緒なのである。

 なので、一回作画してしまうと描き直す以外修正できない2Dアニメーションと違って、あらゆる構図やライティングを試して最適なものを決めることができる。これは3Dアニメーションの強みといえるだろう。

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何台ものカメラが置かれている。完全に撮影だ。

水の進化はCGの進化

 水をCGで表現するのはかなり難しく、昔から課題だった。あの『ロード・オブ・ザ・リング』の視覚効果が評価されたのは、水が非常にリアルに描かれていたからだという部分がある。水の表現が豊かになればなるほど、CGも進化していると言える。常に隣り合わせな関係なのだ。

 本作は美しい水の描写が多いが、それに至るまではやはり苦労があったようだ。水の視覚効果担当のエリン・ラモス氏が、それを解説している。

 クライマックスの洪水のシーンを例に出しているが、最初は完全に泡みたいな感じであった。これだけCGが発達した今でも水の描写は難しいということなのだ。最適なものができるまでシミュレーションを何度も繰り返すそうだ。

 エリン氏は「コントロールされたカオスを作っている」と話す。水の動きは『ジュラシックパーク』でイアン・マルコムが解説していたように予測不可能で無秩序、カオスなのだ。だけど、アニメーションを作るにあたって完全にカオスではいけない。そのように見えるものを作らないといけないのだ。

 これが水の難しさであり、魅力なのだろう。

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まだ未完成の時の水の映像。洗剤のCMみたいに泡っぽい。この泡っぽいのが本編でどうなったのかは皆さんはご存知のことだろう。

アニメーターへの配慮

 これは感心したことなのだが、カットされて凹んでいるクリエイターをちゃんとフォローしていたことである。これがあるのとないのとでは、モチベーションに大きな差が出る。辛いだろうが励みにはなるであろう。

 前述のオラフが生き返るシーンを含め、8つのシーンがカットされた悲劇のコーリー氏もパビーオラフの監修をすることで心のよりどころを見つけたようである。何だかんだで自分の仕事は無駄ではないと思えるのだから、いい環境なのだろう。

 そして、追加作業への配分をしっかりやっているのも好印象だ。プロデューサーのピーター・デル・ヴェッチョ氏が「アニメーターが一週間で作れるのは3秒分だ」と話しており、それに沿って可能な範囲で作業を配分しているのを見ると、無理な量を押し付けるのではなく、きちんと理解して考えているのがよく分かる。

 追い込み期間なのでかなり大変だろうけど、それだけ頼れるアニメーターがいるというのはやはり強い。

間に合わなかったことはない

 ピーター・デル・ヴェッチョ氏が言うに「公開に間に合わなかったことはない」らしい。まあ、実際に公開日にちゃんと公開されたのだからその通りなのだろう。

 しかし、ここまでカツカツだともうちょっと延ばしても良かったのではとも思ってしまう。が、もし数ヶ月遅れていたら新型コロナウィルスの大流行に完全にバッティングしてしまっただろう。なので、結果的にその判断は正しかったわけである。

 つまり、締め切りを守るのは大事というわけですな。

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エルサ顔負けのドヤ顔をするデル・ヴェッチョ氏。完全にフラグだが、果たして間に合うのだろうか。

大人向けとはどう大人向けだったのか

 ベッドシーンがあるとかではないのは確かだと思うが(いや、ありますけどね?)、子供には難解だと思ったから直したというのがやはり引っかかる。そして、シンプルにして笑いを増やしたと。それが「子供向け」なのはあなたの感想ではと思うのだが、その方向で出来上がってしまったものはしょうがない。

 でも、どんな内容だったのか知りたい!教えて、その内容を!

 カットされたオラフが生き返るシーンは逆に分かりやすいんじゃないかと思うのだが…。ざっくりとしてよく分からないよりかは、よく分からないけど映像として素晴らしい方が遥かにマシだ。このシーンだけでなく、シンプルにしたせいで返って分かりにくくなってしまったということは無いだろうか。単純にするということはそれだけ描写も減るわけだし。

 当初の『アナ雪2』は台詞も難解で抽象的な表現が多かったが、映像を見て考えれば分かるようになっていたのかもしれない。いや、現行もそうではあるのだが、あまりに端折られている気がするのだ。

 もし、変更がなく、「大人向け」のままでいっていたとしたら、ディズニーアニメーション映画では割と画期的な「続編で大人向けに舵を切った作品」として残ったようにも思う。当然、子供からの評価は下がり、今よりはヒットしなかったかもしれないが、映画として高評価を受けていた可能性はある。

 変更前のバージョンを見る術がないので、これらは完全な妄想である。本当に酷かったので変更して正解だったってことも当然あるわけだ(カットされた人の反応を見るにそうでないように思えてならないが…)。

 脚本だけでもいいから変更前のものが見れれば諦めもつくのだが…

 『スター・ウォーズ EP9』みたくリークされねぇかな…

 

*1:ハリウッドでよく行われている、完成前の作品を観客に見せてその反応を見るというもの。そこで出た意見で大きく内容が変更されることがある。