Mousou-Eiga Blog

映画を妄想で語ったり語らなかったり

【アナ雪特集#2】『アナ雪2』メイキング第1話を見た感想。まるで成長していない?浮き彫りになった問題点。

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 ディズニープラスで『アナと雪の女王2』のメイキングである『イントゥ・ジ・アンノウン』の第1話が公開された。これが最初から結構衝撃的だったので、その感想を書いていこうかと思う。

 何が衝撃的だったかといえば、ストーリー・トラストの箇所。ここではスクリーニング後の率直な意見を他作品のクリエイターから聞くわけだが、そこで出たものがとにかく凄いのだ。

  • 「説得力ある答えに向けてまとまってはいるが、その答えに明瞭さがない」
  • 「彼女(エルサ)は闇に向かって落ちていったけど、それがよく理解できない」
  • 「結局エルサは何になったの?」
  • 「エルサが黙ってるのが変。アナに呼び声を聴いたと言ってもいいのでは?」
  • 「頭がかなり混乱した。納得できないことがいくつかある」
  • 「メモを取らないと内容が理解できない」  

  • 「声の主が人か川なのかを決めないと」
  • 「内容が分かりにくくて暗い」               

 おわかりいただけただろうか?これらは全て現行の本編にも言えることなのだ。

 つまり、『アナ雪2』はこれらの問題点をほとんど解消しない(できない)まま完成してしまったということである。どうしてこうなったのだろうか?他にも多くの指摘があっただろうが、これらを抜粋したのは意図的に思えてならない。

 そもそも、脚本の制作過程で解消されなければならない問題なのでは?。

 私がこれらの問題点の中でとくに衝撃を受けたのは、クリステン・アンダーソン=ロペスが言い放った「声の主が人か魔法の川なのかを決めないといけません」というもの。

 え?公開まで一年切ってるのに決まってなかったの…?って。

 てっきり、ジェニファー・リー監督が脚本の段階で決めてるもんだと思っていた。それが全くの宙ぶらりんだったとは…。てか、決めておかないと物語が上手く進まんのではなかとですか、リーさん?だから分けわからんって言われちゃうんだよぉ。散々指摘されて「作品が砕け散りそう」って凹んじゃう気持ちは凄くよく分かるけど。私もシナリオのフィードバックで同じような事を何度も言われたのでね…。

 私は「アナ雪特集#1」で『アナ雪2』をかなり絶賛気味に書いたが、その実かなり問題点も多い映画だとも思っている。

 

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  この映画が大好きなのは間違いないのだが、だからこそ見えてしまうものもある。何せ124回も劇場で見ているわけで…そんじょそこらの鑑賞数ではない。

 どこが問題に思っているのかは今回は詳細には書かないが、概ね上記のクリエイター陣が指摘したものと一緒だ。本作はテーマを入れ過ぎた故にごった煮の闇鍋状態で、何を取り出してもよく分からない。下手すると胸焼けを起こしそうなクリストフのスープだ。

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スクリーニングの様子。できれば全編見たいところだ。

 では、なぜこのような問題点が解消されないままになってしまったのか。メイキングの1話を見た段階での私の推測を述べていこう。

 まず、ジェニファー・リー監督らはまさかここまで問題点が出てくるとは思っておらず、しかしそれらを直そうにも後一年しかなくてほぼ不可能だった。いや、ただ指摘のあった部分を直せばいいじゃないかと思うかもしれないが、脚本上の問題点はただ直せばいいわけではない。一つを直すとそれに合わせる形で、他の箇所も直す必要が出てくる。下手すると脚本全体を書き直さなければいけなくなってしまうのだ。もちろんそんな時間はないので、目立つ粗を削るに止め、後の「よく分からない」と言われた部分はもうレリゴーして(開き直って)、観客の解釈に全て任せる形にしたのではなかろうか。実際、考察は凄く捗る。アート映画と捉えることも可能だろう。こうなったのを私は問題だとは思うが、悪いとまでは思っていない。

 もう一つは、監督らの構成力の問題。そもそも前作の『アナと雪の女王(原題:Frozen)』はスクリーニングで散々な評価を受け、何度か内容が大幅に変更されて今の姿に至った経緯がある。これについては、ディズニープラスに「アナと雪の女王のすべて」というメイキングがあるので視聴してみるのをおすすめする。他に制作の裏事情について詳細にまとめられた記事もある。

gendai.ismedia.jp この記事に書かれている事が概ね事実であるとすれば、今回もほとんど同じ指摘を受けているということになる。

 特にジョン・ラセターの指摘に注目したい。記事を引用するが「この映画の内部ではいくつかの異なるアイディアが競合している感じがする。エルサの物語があって、アナの物語があって、ハンス王子がいて、雪だるまのオラフがいる。どの物語にもすごくいいところがある。いや実際、素晴らしい素材がたくさん盛り込まれている。でもそれを、観客の心を摑むひとつの物語にまとめあげる必要がある。『核』がなくてはだめだ」という部分。これはハンス王子の部分をノーサルドラに、雪だるまのオラフを精霊などに置き換えると『アナ雪2』への指摘にそっくりそのまま変換できてしまう。

 私は本メイキング「イントゥ・ジ・アンノウン」を見た時、この記事や前作のメイキングを思い出し、「まるで成長していない……」という安西先生の言葉が浮かんでしまった。

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井上雄彦スラムダンク」(集英社、22巻)より

 前作から6年もあったのにいったい何をしていたのだろうか?彼らに基礎を教える人間はいるのか?仲間と上手くコミュニケートできていないように見える…と言うと言い過ぎだが、それくらい私には衝撃的だった。またしてもテーマを入れ過ぎて「核」が無くなってしまっているのだ。しかも、今回はそれが直っていない。大きな問題だと思う。

 今回も脚本から担当したジェニファー・リー監督はあの時のラセターらの指摘をしっかり肝に銘じて学ぶ事をしたのだろうか。それとも、例の件でラセターが退任した影響でそのイズムを学びきれなかったのか。ここは当事者ではないのでハッキリとは言えないにしろ、6年も経って同じ事を繰り返していてはいけないのではないか。少なくとも、公開まで一年を切った状態で出る指摘では無いとは思う。もっと時間があれば精査できたのかもしれないが…。

 ここら辺は脚本の制作段階から見れば分かるかもしれないが、今回のメイキングは公開までの一年間を追ったものなので、それは難しいかもしれない。まだ5話あるので何かしら見えるものが出てくることを期待したい。

 しかし、核が宙ぶらりんではあるにせよ、出来上がった映像と楽曲は素晴らしく、特にアニメーション演出はディズニー映画史上最高のものであると思う。私がエルサに結婚を申し込むレベルで美しい。これは間違いない。だからこそ、何がやりたいのかを明確にし、しっかりとした物語を作っていただきたかった。まあ、テーマ優先で内容がどこかに行ってしまうのは今のハリウッド映画全般の問題点ではあるのだが。

 

 以上、結構厳しめに書いたが、メイキングはまだ1話の段階だ。これから出てくる事実によっては大きく感想が変わる事もあるだろう。できればいい方向に変わって欲しいところだ。あの美しいアニメーションがどう作られていったのかを見るのも非常に楽しみである。