「Some Thing Never Change(ずっとかわらないもの)」は、ざっくり言えば「誰しもが成長して変化していく、でもそれってちょっと不安だし怖いよね。だけど、大丈夫。ずっと変わらないものはあるよ」って皆で歌う曲なわけですね(現状から目を晒すみたいな面もあるんですけど、そこは今回語りません)。
私のレリゴーに関してのスタンスはブログを読んでいただきたいですが、一言で言えば「ネガティブ」です。それは「The cold never bothered me anyway(どうせ寒さなんて平気なんだから)」という言葉と共に背を向けて扉をバーンと閉めてしまうことからも分かりますが、とにかく後ろ向きな曲です。何せ「ずっとここに閉じこもって暮らすんだ」って言ってるわけですからね(オラフが一人芝居で茶化してますよね)。
しかし、今回の「Into the Unknown」では、なんとあの一人でいたいとか外に出たくないとネガティブなことばかり言っていたエルサが「未知の世界に出たい!」とか言い出すんですよ!そう「ポジティブ」なのです。
前回は世の中に対して背を向けて「ちっとも寒くない」とか強がりを言って扉をバーンと閉めてしまいましたが、今回は過去や今の幸せなはずの生活に背を向けてバーンと扉を開き「Into the unknown!(未知の世界へ!)」と3回も繰り返すんですね。バルコニーで高らかに声を張り上げて(近所迷惑じゃないんですかね?)。
言ってしまえば、この曲は「Let It Go」の完全なやり直しであり、その要素のほとんどが真逆です。
自分だけでなく「お前も見せろ」と言い出すエルサ
前作からのエルサの心情の変化は「Into the Unknown」の項目で述べた通りですけど、ここではさらにその先へと向かいます。
「私の準備はできたわ。さあ、あなたも自分を見せて」って言うんですね(なに?誘ってるの?)。
「Let It Go」では自分を解放したように見えて、実はさらに閉じ籠ってしまい、開き直った結果、アレンデールをものすごい雪まみれにしてしまいました。しかし、今回は違います。開き直りではありません。エルサの言葉は本音となります。自分の悩みを素直に打ち明け、本当はどうしたいのかを叫ぶのです。真の意味での心の解放であり、正に「Let It Go」の進化といえるでしょう。
言ってしまえば「Into the Unknown」は完全な前座であり、そして対になっていると言えます。2つの曲が合わさることで、完全なものになるわけですね。
余談ですが、アカデミー賞には「Into the Unknown」ではなく「Show Yourself」を出すべきだったんじゃないかと思います。世間的な知名度は前者でしょうけど、曲の完成度からしたら間違いなく後者ですし、今の時流にも合っているので十分狙えたでしょう。まあ、「アナ雪2」そのものもアカデミー長編アニメ賞ではノミネートすらされなかったので、ファンとしては残念ですがこれには納得感はあります。その辺はいずれ語ろうと思います。
前作のアナはのっけからの「For The First Time in Forever(生まれてはじめて)」で分かるように、今の生活が嫌で外に出たい、素敵な誰かに会いたいって思いが強かったですよね。
しかし今回は「Some Thing Never Change(ずっとかわらないもの)」の一節にある「I'm holdin' on tight to you(心はひとつ※歌詞カードの翻訳は「あなたの手をしっかりと握っている」となってます。この歌詞は直訳すると「あなたを抱きしめている」になるので、歌詞カードの意味の方が近いと思います。)」からしても、今の生活がとても幸せでずっと続いて欲しいという気持ちが強いですよね。ここからして、本作のアナの心情は前作と真逆であるといえるでしょう。「I'm holdin' on tight to you…」と最後にアナが一人で改めて歌う点からしてもそれが窺えます。
この"消失の恐怖"が今回アナが立ち向かわなければならない障害であり、それを乗り越えた先が「The Next Right Thing(わたしにできること)であるわけです。この辺はいずれ語るとしまして、アナは前作とは違って現状維持をとにかく望んでいるのがわかります。だって、せっかく大好きなお姉ちゃんと仲良く過ごせるようになったんですからね。気持ちは痛いほど分かりますわ……
それが「To hear that voice(あの声を聴こう)」という部分に現れています。「あの声」とはエルサが凍る直前にアナに全てを託した声なのはもちろん、実はアナにもずっとアートハランからの声が聴こえていたということでもあるんですよ。それを彼女は無視していたんです。エルサとの日常の方が大事だったから。でも、その声をようやく彼女は受け入れたのです。ここは前作というよりも、本作のアナへのアンチテーゼといえますね。
「For The First Time in Forever(Reprise)」でアナはエルサなら問題を解決できる、一緒にやれば大丈夫だと言うんですが、自分の考えを押し付けるばかりでエルサの話を聞こうとして無いんですね。エルサは「危険だから帰って欲しい」と訴えるんですが、アナはその理由も聞かずに「一緒に行こう」と言うばかり。お互いの主張は平行線のまま、できてしまった溝が全く埋まらずに、最終的にエルサの「できないものはできない!」という強い拒絶と共に決裂し、エルサの凍った心がアナの心も蝕んでしまうという最悪の展開になります。あんなにアナを守ろうとしていたのに、エルサは内なる怒りと恐れに支配されて、逆にアナの命を危険に陥れてしまうとは悲劇としかいいようがありません。すれ違う心は溢れる涙に濡れ……
アナもまた自分の命を投げ出してまでエルサを救おうとしたんです。あれだけ誰かから愛されることを待ち続けたアナでしたが、大切なのは自分が愛することなんだと気付いたということです。「For The First Time in Forever(Reprise)」では、お互いに「分かってくれよ」「愛してくれよ」で全く噛み合いませんでしたが、ここでようやく「あなたを愛します」に変わるんですね。
先に述べたように、真実の愛とは大切な人を愛することです。つまり、それに沿った行動をすればパビーの野郎が言ったように呪いが解けるということになります。アナはエルサを助けるために、自分が助かる可能性を捨てました。「自分よりも人のことを想う」それができたアナは呪いに打ち勝つことができたわけですね。エルサに「I ove you」と伝えたことからも分かります。これは『アナ雪』本編で初めて出た本当に愛を伝える言葉でもありますね*2。
最後に音楽にも注目して欲しいです。ここで流れる曲は「For The First Time in Forever(生まれてはじめて)」と「Do You Want to Build a Snowman?(雪だるまつくろう)」のフレーズが含まれています(サントラでは「EPILOGUE」と題されてる曲ですね)。この2つの曲は、事前に解説でも述べた通り、姉妹の決定的なすれ違いを描いた曲でしたが、ここでは全く意味が変わります。
まず、最初の「Let it go , let it go~Couldn't keep it in」までの歌詞は今までの回想でしょう。『第一』では現状を歌っていたものでしたが、それらが全て過去のものになりました。もう魔法を隠す必要も閉じこもる必要もなくなったのだから、気にする必要はなくなったんですね。
「Let it go ! ,let it go (これでいい、かまわない)」はもちろん完全にポジティブな意味になっています。そして、『第一』であれだけ言っていた「Let the storm rage on(嵐よ吹き荒れろ)」を一度も言いません。もう呪いをかけていないわけですね。
「And here I stand and here I'll stay(ここから二度と動かない)」は『第一』では氷のお城に引き籠って全体に動かんぞー!っていうネガティブ極まりないものでしたが、ここでは皆ともう一度一緒にいたいからアレンデールで暮らすんだという前向きな「動かない」になっています。
「Turn my buck and slam the door(ドアを勢いよく閉めるのよ)」は言うんですが、これも『第一』のような過去を全て否定し、もうどうでもいいんだっていうネガティブなものではなく、自分を愛せなかったダメな自分とはおさらばして、もうくよくよしないんだという前向きなものでしょうね。
さらに、単なる強がりでしかなかった「The cold never bothered me anyway(寒さなんて全く平気なんだから)」が本心になりました。前編で解説したように「少しも寒くない」とドヤ顔したところで心は寒いままでしたが、今のエルサには大好きな妹も側にいますし、オラフという新しい家族もでき、自分の魔法に恐れる事もありません。
歌詞の変更も重要なポイントです。『第一』の「It's time to see~I'm free !」,までのグレてしまった箇所の歌詞がごっそり抜けて「Up here in the cold thin air. I finally can breathe.I know I left a life behind. But I'm too relieved to grieve(冷たく薄い空気の中にいるとやっと息ができる。でも、私はすっかり気が楽になって悲しむ気にもなれない)」という歌詞になっています。エルサの心境の変化がよく表れています。「まだ一人でいる方が楽ではあるけど、だからと言ってもう悲しまないわ」ともう『第一』の時のような開き直っただけの自由ではなくなったということでしょう。
そしてそして、一番曲調が変わる「Standing~In the snow」の部分です。これは新たに追加された歌詞ですので、エルサの新たな心情を歌ったものでしょう。一番重要なので部分部分で見ていきます。
「Standing Frozen In the life I've chosen You Won't Find me(自分が選んだ生き方で凍ったまま立っている私をあなたは見つけることができないでしょう)」の部分。「自分が選んだ生き方」は正にアナを守るために閉じこもる事にした13年間の人生で「凍ったまま立っている私」はその13年間ですっかり心が冷え切ってしまい、レリゴーで開き直ってアレンデールを雪で覆いつくしたエルサのことでしょう。「あなた」はエルサ自身のことです。つまり、「もう過ちは犯さない。心の凍った自分はもう消えたから悲しもうとしても無駄よ」ってことでしょうね。それと、これは私の妄想的な解釈になりますが、既にこの時点であの「レリゴー」は過ちだったと彼女は認識しているのではないでしょうか*6。だって、短い間とはいえグレちゃったわけですからね。おまけに国をあんなに雪だらけにして。反省しないとダメです。で、反省したんですからやっぱりエルサはいい子なんです。
続く「The past is all behind me Buried In the snow(過去は全て去り、雪の中に埋もれている)」ですが、これはもうそのままの意味ですよね。辛く寂しかった過去は、これから始まる幸せな人生が雪のように覆ってくれると。
ものすごいポジティブですよね。『第一』ではあんなにネガティブだったのに。「Let it go」で歌が終わるのもいいです。エルサが「これでいいのよ」って前向きになったのが分かって。
私はこの【第二『Let It Go』】、いや【真『Let It Go』】というべきですかね。これを聞くと、エルサは救われたんだなって幸せな気持ちになります。エルサが伸び伸びと楽しそうに魔法を使っている姿が想像できますよね。同じ歌なのにこんなにも意味が変わってしまうなんて素晴らしいと思いませんか?
もうこのシチュエーションだけでネガティブだと分かるんですが、「Let It Go」の曲調が明るい上にエルサも伸び伸びと歌っているため、そうだと気付きにくいですよね。その上、聴いてるこっちも気分がめちゃくちゃ上がります。このネガティブだったりマイナスな場面で明るい表現を被せてくるというのがもうこの映画が素晴らしい所以なんです。
では、なぜここで後悔してしまうのかというと、エルサが"素直でいい子"であり、そのような人間であるようにずっと言われてきたからです。後の歌詞に出てくる"Perfect girl"や、「For the First Time in Forever(生まれてはじめて)」等の歌詞にある"Be the good girl"がそれです。